小さなボディに収められた
未来につながる先進技術。
1970年10月に発売された日産初の前輪駆動車。1Lと1.2Lのエンジンを搭載し、当初は2ドア/4ドアセダンが販売された。カプセル・シェイプと呼ばれるセミファストバックフォルムがデザインの特徴。71年9月には3ドアハッチのクーペを追加した。
文:モンキープロダクション
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前輪駆動の採用により、ゆとりある室内空間を実現。乗り心地も優れていたが、さらなる快適性追求のため空調システムにも工夫が凝らされた。
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クーペは斬新なフォルムで話題を呼んだ。H.S.S.(ハイスピードサスペンション)と名づけられた4輪独立懸架を採用したことも大きなトピック。
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高性能グレード「X-1」の1.2Lエンジン。ゼロから開発がスタートした横置き前輪駆動機構は、振動面など数多くの難題を乗り越え実用化された。
チェリーは、日産車初の横置き前輪駆動機構を採用した意欲作だ。日本では1960年代半ばになると、「マイカー時代」が幕を開ける。各メーカーは大衆車の開発に注力するが、日産自動車は当時まだ珍しかった前輪駆動に挑戦する道を選んだのである。
その理由は、まず実用性と経済性。後輪に駆動力を伝えるプロペラシャフトが必要ないなど、クルマ全体を軽量、コンパクトに設計可能で、さらに広い室内空間を確保できた。また、直進安定性に優れていることも大きな魅力で、高速道路網が整備されていくなか大きなアドバンテージと考えられた。
前輪駆動はエンジンを横置きし、その下後方にギアボックスをレイアウトする“2階建て方式”を用いたが、チェリーの新しさはこれだけにとどまらない。フロントがマクファーソンストラット、リヤがフルトレーリングアームのサスペンションは4輪独立懸架方式とし、路面変化に素早く追従することで、卓越した操縦性と快適な乗り心地を両立。こうしてより身近な乗用車のあり方を提示したチェリーは、日本はもちろんヨーロッパでも高い人気を得た。ノートやマーチなど日産のコンパクトカーの源流をたどれば、そんなチェリーの先進性に行きつくのである。
※本記事は2016年4月1日時点の情報を元に作成されております。