田んぼに水を行き渡らせるための農業用水路を利用した小水力発電施設、鬼怒中央飛山発電所。鉛バッテリーを60個格納した蓄電施設と急速充電器を併設し、EVに充電して農業に活用する試みは全国で初めて。1年間、順調に稼働した場合の発電量は約1万2,500kWh。
水路に落差を設け、水車を回し発電機を動かし発電する。つくられた電気は蓄電池に貯め急速充電器につなげている。水路の水は流れ続けるので常に発電し続ける。上限を超えると蓄電池の故障につながるため、満充電になった場合は電球や水中にあるヒーターに電力を逃がす工夫も施されている。
清らかな自然、豊かな資源が残されている栃木県では、地域資源を活かして電気をつくり、住まう人のために役立てると同時に、環境を守る施策が県全体で行われている。
きっかけとなったのが2009年11月のとちぎ環境立県戦略の策定。「地球と人にやさしい“エコとちぎ”」をスローガンとして掲げ、持続的に成長・発展する社会を目指し、県民と産業が一体となって進めることとした。そのおよそ2年後に立ち上がったのが、とちぎ電気自動車等普及促進協議会。その取り組みの一環として、自家発電による電気をEVに充電し、地域内の移動手段などとして利用している。段階的に実験が行われており、そのテストモデルのひとつとして導入されているのがe-NV200だ。
主な舞台となっているのは宇都宮市竹下町。鬼怒川が流れ稲作が盛んなこのエリアには、水資源が豊富にある。そこで設置されたのが、安定した供給を望むことができる農業用水路を応用した小水力発電だ。生み出された電気は売るのではなく地域だけで使われているが、EVの充電に活用されている。EVを媒介にしたこの取り組みの背景にあるのは、利用者に安心感をもたらすための「再生可能エネルギーの地産地消」というモットーである。
e-NV200の利用は大きく分けて3通り。1つ目に挙げられるのが作物の配送や公的施設への送迎。一度につき多くの人、荷物を移動させるため、積載性の高いe-NV200である必要があるのだ。2台のEVを用いて配送などを行っているが、CO2の削減を実現し、さらに燃料費も軽減できていることは、大きな魅力だと言う。2つ目は農業用器具の充電。e-NV200にはパワープラグと呼ばれる一般的なコンセントがあり、そこから直接充電を行うことができるので、わざわざ作業現場から離れ、自宅に戻って充電する必要がなくなった。3つ目がビニールハウスへの電力供給。これは主に災害時の停電対策用として考えられている。
プロジェクトがスタートしてからおよそ4年が経過し、その間、幾度となく改良が重ねられた。ベースとなるシステムができ上がった現在の課題は、この取り組みを全国に波及させ多くの人に知ってもらい、e-NV200を中心とした豊かで安心できる暮らしを体感してもらうことだと言う。
e-NV200を配送で活用しているのは、宇都宮市内でユリ生産農家を営んでいるエフ・エフ・ヒライデ。ほぼ毎日、e-NV200を走らせ10kmほど離れている市場まで出荷する花を運んでいる。クルマの充電はおよそ50kmおきに、鬼怒中央飛山発電所で行っている。モーター駆動のため乗り心地が静かな点も気に入っていると言う。
エフ・エフ・ヒライデは、有機質肥料を用いて栽培を行い、ハウスや工場の電力を太陽光発電でまかなうなど、生産方法にもこだわっている。この環境負荷低減の取り組みは栃木県の方針と合致。e-NV200はリヤシートを畳まずとも、段ボール箱(1箱につき2本のユリが収められている)をおよそ50箱積むことが可能。
東日本大震災の時に起きた停電によって農作物に大きな被害が生じた。その原因のひとつが農業用ハウスの窓が開閉できなかったこと。ハウス内の温度が上がると作物にダメージを与え、湿度が高くなると病害が発生してしまうからだ。栃木県では非常用の電源としてもe-NV200を応用できるよう実験を重ねている。ハウスへの電力供給はLEAF to Homeなどを介して行っている。
※本記事は2016年12月1日時点の情報を元に作成されております。