日産デイズは、軽自動車の常識を覆す
安定感や先進技術で好評を得ている。
続く新型日産ルークスはどんなクルマを目指したか。
開発、マーケティング、商品企画に関わった三者が、
それぞれの立場で語る。
齊藤 日産が独自に軽自動車を開発するのは2代目の日産デイズが初めてでした。そのため、日産デイズと新型日産ルークスの開発責任者を務めるにあたっては、お客さまの使い方を聞いたり、自分で乗ったり、まず軽自動車について知ることから始めました。
川底 僕は商品企画という立場から、やはりセレナやノートで培った技術を活かした軽自動車を提案するのが、日産のクルマのあるべき姿だと考えていました。ただ、軽自動車の市場を見ると価格を重視する傾向も強いので、日産の技術とお客さまのニーズが合うのかどうかは、しっかりと検討すべきポイントでしたね。
小木曽 僕はマーケティングの視点から考えると、初めはチャレンジングな試みになるだろうと思っていました。たとえば、プロパイロットを搭載させると価格が上がってしまいますから。
川底 ただ、基本に立ち返ると、日産が目指しているのは、みなさんの生活を豊かにすること。ただ走ればいいというクルマではなく、人をワクワクさせたり、感動させるクルマ。それこそが日産の軽自動車だと思うんです。
小木曽 そこなんです。軽自動車ユーザーの方と話した際、価格を重視している一方で「本当は友だちと少し遠くに出かけてみたい。プロパイロットやインテリジェント アラウンドビューモニターのように、より安心して出かけられる技術を積んだ軽自動車があれば、そういった楽しみ方をしたい」という本音も聞こえたんです。そうした気持ちをうまくつかむべきかもしれないと思いました。
齊藤 こうして、日産デイズが主に独身の方やカップル、日産ルークスが家族に使っていただくことを想定して開発が始まりました。クルマはプラットフォーム(基本骨格)で性能が決まります。それを決めるにあたって、特に日産ルークスはもう少し室内を広くしたいということが課題にありました。
川底 僕は図面が描けないのに「もっと広くしてください」と言ったので、設計の方に嫌われたと思います(笑)。
齊藤 (笑)。室内を広くするにはエンジンルームを小さくしないといけないんです。それで、エンジンやトランスミッションを担当する役員に直訴したところ、短期間でコンパクトなCVT(無段変速機)を開発することになりました。
川底 開発が急に進んで、来た! やってくれた! と思いましたよ。
齊藤 そうやって広さや利便性ではどこにも負けず、プロパイロットに代表されるニッサン インテリジェント モビリティの技術も搭載した日産デイズと日産ルークスの開発を進めました。
川底 齊藤さん、覚えていますか? 日産ルークスには踏み間違い衝突防止アシストなどのために、登録車と同じく後方にもソナーを4つ採用しました。しかし当初、他社の軽自動車の多くは2つなので、4つは不要なのではないかと僕が言ったんです。すると齊藤さんが「多いほうが細かく制御できる上に、障害物の接近を知らせる機能などにも応用できる」と教えてくれました。他社と同じようにするのではなく、日産が磨いてきた技術という価値は、そのまま活かすべきだということに気づかされました。
小木曽 そこはマーケティングの立場としてもポイントで、いまや日本の乗用車の販売台数の約4割が軽自動車。だから初めて所有するクルマが日産の軽自動車だという人も多くいらっしゃいます。つまり、先進技術に触れる入り口になり得るわけです。日産デイズや日産ルークスに乗ってくださる方にも、技術の日産ならではのワクワク体験を提供したいと考えています。
川底 いままでセレナに乗っていたけれど、子どもが独立してダウンサイジングするという方もいらっしゃるでしょう。登録車にせよ、軽自動車にせよ、日産が届けたい価値は一緒なんです。
齊藤 たとえばショックアブソーバーにコンパクトカーと同じ径の部品を使い安心して走れるように仕上げているし、後席の人も会話が楽しめるように静かさにも配慮しています。広くて使い勝手がよくて最新技術も盛り込む、出かけるのが楽しくなるクルマに仕上がったと自負しています。1つが突出しているのではなくすべての要素を備えた、どの点においても妥協を許さなかった軽自動車になりました。
※本記事は2020年3月31日時点の情報を元に作成されております。
堂々と乗れて、もっていて嬉しくなる軽自動車。
そう思ってもらえるものにするために、デザインは不可欠だ。
内外装の造形、カラー、シートテキスタイル、
それぞれに関わった人物に話を聞く。
「新型日産ルークスはミニバンとも言えるクルマなので、立派に見える存在感と洗練が同居するエクステリアデザインにしました。箱型になりがちな他のスーパーハイトワゴンに対して、ルークスはそのカテゴリーに属するものの、比較的フロントウィンドウの傾斜が大きく、フロントからリヤまでが流麗につながり、フォルムに一体感、凝縮感があります。それが洗練された印象をもたらすと考えたのです。また、フロントグリルのパターンなどの細部にもこだわり、遠くで見た時、近くで見た時、両方でハッとさせられるものに仕上がったと自負しています」
「リヤに関してはワイド感を強調するデザインにしました。そのアクセントとなっているひとつが、少しだけ外側に張り出すようにレイアウトされた、コの字のリヤコンビランプです。とてもシンプルな形ですが、幅感を強調するのに功を奏しています」
「今回のボディカラーのメインであるアメジストパープルは、以前より紫の色味を強くしました。ルーフには柔らかなアイボリーを組み合わせることで、クールになり過ぎないようバランスを取っています。王道的な部分は保ち、わずかに外す。そうすることで、より多くの人、たとえばファッションなどに対して感度が高い方にも受け入れてもらえるのではないかと考えました」
「いかにお客さまに満足感をもっていただけるものにするかが、デザインするに当たっての課題でした。そこで私がこだわったのが、乗る人の身体に常に触れているシートのテキスタイルデザインです。キルティングを使った立体的なパターンと色は、何度も検証を重ねた結果、できたものです。触った時の風合いはソフトで、ボディカラーとマッチするシックな色味のものとして完成度を高めました」
内装色:エボニー(G) シート地:トリコット
「私たちの意識は、軽自動車をつくることではなく、登録車の装備やスタイルをいかに軽自動車の枠の中で実現するかという点に向いていました。私が担当した内装のデザインに関して言えば、軽自動車はメーターが小さな単眼のものであったり、ステアリングが細かったり、シフトノブが小振りだったりするケースが多い。しかし、それでは特に登録車からのダウンサイザーの方にとって扱いづらくなります。ルークスにはあらゆるものに登録車相当の装備を採用しているため、使いやすさや安心感がある、広々としたスタイリッシュな空間になっています」
「頻繁に触れる操作系は、クオリティの高さが直感的にわかる部分。このタッチパネル式のオートエアコン(グレード別設定)は、視認性と触り心地にもこだわり、感覚的に伝わる気持ちよさが追求されています」
※本記事は2020年3月31日時点の情報を元に作成されております。
エンジンをどこに置き、人をどこに座らせ、
荷物をどこに積むか──
クルマの基本的な性格を決定する
プラットフォームの開発担当者は、
常に乗る人のことを考えていた。
日産ルークスのエンジンルームの中身を上から覗き込んだ際の様子。エンジン、CVTの形やレイアウトなどは、何度も検証が重ねられたのだという。
クルマの基本骨格はプラットフォームと呼ばれている。共通のプラットフォームが用いられている日産デイズと新型日産ルークスは、並行して開発が進められた。それを手がけたのが高橋宏彰である。
「プラットフォームによってクルマの基本的な性格が決まります。日産デイズと日産ルークスにおいては、軽自動車でトップクラスの後席の広さを生むことを目標として掲げていました」
ただ、軽自動車は全長3395mm以内という規格があるため、ボディ自体を大きくはできない。
「そこで、エンジンルーム、乗員のスペース、荷室空間をどう配分するかが勝負になります。言わずもがな、お客さまが乗るスペース、使う荷室は広さを確保しなくてはならないので、小さくできるのはエンジンルームのみです。要するに、その中に収まっているものを小さくしなければならなかったんです」
そして、エンジンやCVTをどのように搭載すれば、効率よくレイアウトできるかを考えた。「ただ、それだけでは限界があり、エンジン前後長やCVTを軽自動車専用に小型化することで解決できたんです」
日産ルークスは日産デイズより115〜135mm全高が高く、スーパーハイトワゴンに属する。双方の性格の違いについて、高橋は次のように述べた。
「エンジンルームを小さくし、運転席を従来よりも前に出したのは両車共通。日産ルークスに関しては、さらなる見晴らしのよさを提供するために、座る位置を日産デイズに比べて約80mm高くしています。ただし、頭上にある程度の空間がないと不快に感じますし、座る位置が高すぎると乗り降りがしにくくなる。その案配を決めるのが難しかったですね」
エンジンルームとシートレイアウト、その2つのアイデアで空間にゆとりが生まれたが、ただ形や位置を変えるだけだとデメリットが発生すると高橋は話す。
「エンジンルームを小さくすると、必然的にガードが薄くなってしまうので、衝突安全性の問題が出てくるんです。ボディサイズが小さいですから、安全性を確保することも命題の1つ。『軽だから』といったイメージを払拭したいという想いもありました。そこで日産デイズと日産ルークスには、従来よりも強度が高いボディを採用することにしました」
※本記事は2020年3月31日時点の情報を元に作成されております。
「ネイルを施した指でスイッチを押す時はどうする?」
「子どもを抱きながら、ドアを開ける際は?」など、
誰もが安心して運転できるクルマにするために、
開発には女性の視点も採り入れている。
それをクルマに反映させる責務を担う、
村弘美にポイントを聞いた。
両手がふさがっていても、片足を車体の下で動かすとセンサーが感知しリヤのスライドドアが開く。*1「赤ちゃん用品店の駐車場に通い、お子さん連れの動きを勉強しました。また、社内で子育て経験のある方を集め、赤ちゃんを抱いた状態での乗り降りのしやすさを確認したんです」
室内の高さは、小さなお子さまなら立ったまま着替えができるほど。2列目シートは大きく前後し、運転席に近づけることもできる。「子育て世代の女性から、2列目シートのお子さんとの距離が近いと、信号待ちなどで足に触れることができて安心だという声をいただき、スライド幅を大きくしています」
スライドドアの開口部の広さは、子育て経験者が赤ん坊の人形を抱き、チェックして決められた。
大きな乗降用グリップは、お子さまからお年寄りまでが安心、安全に乗り込むための形状。
4名が乗車した状態でも十分な広さを確保したラゲッジルーム。後席をスライドさせたり倒すことで、アレンジすることもできる。「後席の背もたれの角度をまっすぐ立てられるようにしたのもこだわりです。こうするとダンボール箱などを隙間なくきっちりと積むことができるんです」
「軽自動車にお乗りの方は免許を取ったばかりの方や運転に不慣れな方が多いんです。そこで他のモデルに採用されているフラットボトム形状ではなく、一般的な丸い形状のハンドルにしました。小物入れは使う人がどこに何を置けばいいのかが直感的にわかるよう工夫しています。たとえば、スマートフォンを置く場所の近くにはUSBソケットのオプション設定があります」
※本記事は2020年3月31日時点の情報を元に作成されております。
現在、日本の乗用車の約4割が軽自動車であり、
たくさんのモデルが街を走っている。
そのなかにあって、新型日産ルークスの特長のひとつは、
さまざまな先進技術を積んでいることだ。
新型日産ルークスの開発において、神長元治はプロパイロットをはじめとする先進技術を担当。日産デイズに続き日産ルークスを手がけた神長に、デイズから進化したポイントを尋ねた。
「まず、軽自動車として初めて※1インテリジェント FCWという機能が備わりました。これは2台前を走るクルマの動きを検知するもの。たとえば国道で2台前のクルマが脇のお店に入ろうとして急減速すると、それを検知して知らせてくれる機能で、早めの気づきによって安全な車両操作につながります。これは、日産独自の技術です」
神長は、日産デイズに軽自動車として初めて※2搭載されたプロパイロットも、日産ルークスに採用するにあたって大幅に進化していると語る。
「カメラに加えてフロントにミリ波レーダーを備えたことが大きな違いです。ミリ波レーダーによって先行車との距離を遠くから正確に測定できるので、クルマの動きが滑らかになります。なぜなら早いタイミングで、余裕を持った制御ができるからです。お客さまに違和感のない動きだと感じていただくために、私も栃木にあるテストコースに何度も通い、実験部署の協力の元でとことん走り込みました」
インテリジェント FCWやミリ波レーダー、そしてプロパイロットは、これまで登録車が備える技術だと認識されてきた。しかし神長は、「安全技術や運転支援技術に対する考え方は、軽自動車でも同じです」と言い切る。
「先進技術の採用については、ユーザーの方にどれだけ安心・安全を提供できるかという使命感や責任感の意識が強いです。もう少し装備を減らし、価格を抑えられないかという協議もありましたが(笑)、搭載して安心や安全を提供するのは当然という認識でした」
こうして完成した日産ルークスは、望めば現在の日産が用意する先進技術のほとんどを備えることができる。
「グローバルな市場で評価されている日産の先進技術を、軽自動車にも応用して搭載したということですね」
神長のこの言葉は、先進技術に限らず、エンジンやトランスミッション、ボディ骨格まで、すべてにあてはまるはずだ。つまり世界の最前線で戦うために開発した技術を用いることで、日産デイズと日産ルークスという日産ならではの軽自動車が生まれたのだ。
プロパイロットとは、前走車との距離を適正に保ちながら車線の真ん中を走るように、アクセル、ブレーキ、ハンドル操作をアシストしてくれるシステム。車両前方に備わるカメラが車線を認識、高速道路のカーブでも車線の中央をキープするように働く。また、横風を受けてあおられても車線中央を走るようにアシストする。
新型日産ルークスは、ミリ波レーダーを備えたことで、前走車との距離をさらに正確に計測できるようになった。いままでより遠くのクルマの位置を正しく認識することで、ブレーキやアクセルを操作するタイミングが速くなり、結果として滑らかな動きとなる。
ミリ波レーダーが、2台前のクルマとの距離や速度差を把握。先方が急に減速、こちらもブレーキを踏む必要があると判断すると、ディスプレイ表示とブザー音で注意を促す。ブレーキの踏み遅れによる玉突き追突事故を回避するように作動する。
30km/h以上での走行中、周囲を検知し照射範囲をコントロール。ヘッドライトのハーフクローム部分は、消灯時はメッキ、点灯時はアクセントランプとスタイリッシュに変化する。
24灯ものLEDヘッドライトがハイビームで照らすので、歩行者や自転車もはっきり認識できる。一方、対向車などを検知すると、相手がまぶしく感じないよう照らす範囲を制御。夜間のドライブをより安全に走ることができる。神長は「軽自動車でここまでの量のLEDを搭載しているものは他にありません」と話す。
※本記事は2020年3月31日時点の情報を元に作成されております。