新型セレナに、ミニバンクラスで世界初搭載※された自動運転技術のプロパイロット。導入のきっかけをつくった担当者に、その機能と開発への想いを聞きました。
※約60km/h未満で走行時の車間および操舵制御を搭載した1.5~2.0Lクラス
8人乗りミニバンが世界初(2016年6月現在 日産調べ)。
新型セレナには、日産が培ってきた技術がふんだんに盛り込まれているが、ここではストレスフリーな運転を可能にするプロパイロットを紹介したい。プロパイロットは渋滞走行や長時間の巡航走行時に効果を発揮する。高速道路の同一車線において、フロントガラス上部のカメラが前方車両や白線をとらえ、アクセル、ブレーキ、ステアリングの操作を自動的に制御し、人間が運転している感覚に近い自然な走行を行う画期的な運転支援技術なのだ。
「たとえば、週末に家族と遠くまでドライブに出掛けるとします。ドライバーはお父さん。気分よく向かったものの、遊んだ後の帰りの運転はやっぱり辛いですよね。お母さんが代われればいいですが、それができないこともある。そういう時、副操縦士としてプロパイロットが搭載されていれば、もっとドライブが楽しくなるのではないかと考えたんです」。セレナへのプロパイロット導入を担当した笈木大介は、その背景を語る。
フロントカメラが前方のクルマ、白線などを認識し、それをADAS ECUが分析。
そこから生まれた情報をもとにアクセル、ブレーキ、ステアリングの自動制御が行われるというのが、基本的なプロパイロットの構造だ。
「プロパイロットは期待値が高いし、何よりもセレナ最大の売りのひとつなので失敗は絶対に許されません。そのため日本の高速道路での使いやすさを徹底的に追求しました。20万km以上の試運転を行ったり、工場にあるテストコースを高速道路に模した形に改修したりと、高品質な商品を届けるために完璧を期しました」
ドライバーをストレスから解放したいという強い想いが、セレナへのプロパイロット導入を実現したのだ。
プロパイロットは、高速道路での長時間の巡航走行と、単調な渋滞走行時の低速域でも、先行車両に追従しての走行が可能。
この2つのシーンで運転をサポートしてくれるので、高速道路の運転が圧倒的に楽になる。
急ブレーキなどによって起こるタイヤのロックを防ぐことで、 車両が進行する方向の安定性を保ち、また、ハンドル操作で障害物を回避できる可能性を高める機能。
高速道路の直線において、道路の傾きや横風などにより車両の進路が乱されそうになった時、車線に沿って走行するよう、ステアリング操作をサポートするシステム。
フロントまたはリヤのカメラを用い、走行車線の白線を認識。ドライバーが意図せず車線を逸脱した場合それを検知し、ディスプレイの表示と警報で注意を喚起しながら安全を確保する。
先行車との距離や相対速度に応じて、システムがなめらかにブレーキをかけるとともに、アクセルペダルを押し戻す力を発生させ、ドライバーの車間維持操作を支援する。
前後左右に設置された4つの広角カメラによって、クルマを真上から見ているかのような映像をモニターに表示する。周囲の状況を知ることで、駐車をサポートするための技術。
クルマが止まっている時、および発進する時にカメラが周辺の移動物を検知すると、モニター上の表示と音でドライバーに報知する。前後左右の4方向をカメラが捉えるタイプと、後方のみの2通りがある。
2台前を走る車両の車間、相対速度を、フロントに搭載されたセンサーで検知。自車の減速が必要と判断した場合には、表示と音によりドライバーに注意を促す。
ダイレクトアダプティブステアリング(ステアリングの動きを電気信号に置き換えてタイヤを操舵するシステム)と同時に誕生。車線に対するクルマの方向のずれに応じて操舵力をわずかに変化させることで直進性を向上させ、ドライバーの運転負荷を軽減する技術。
自動車事故のおよそ9割は、ドライバーが起こしてしまう運転ミスによって引き起こされています。日産ではできるだけドライバーを危険に近づけないため、数多くの運転支援システムを開発してきました。
その歴史は1996年のABS標準化まで遡ります。その後、レーンキープサポートシステムをはじめ、世界に誇る安全技術を次々に開発してきましたが、いよいよ新型セレナに搭載された「プロパイロット」の誕生に至りました。これからも交通死亡事故ゼロを目指して安全で快適な運転のため、技術開発に磨きをかけていきます。
♦世界初
多くの人がストレスを感じる交通渋滞。
それはなぜ起こるのか、それによってドライバーにどんな悪影響をもたらすのかを、東京大学で交通工学を研究している大口敬教授に伺いました。
東京大学 生産技術研究所教授
大口 敬(おおぐち たかし)
安全、円滑かつ環境に配慮した持続可能な道路交通システムを実現するため、交通現象を理解する研究や道路における課題解決および提案などに取り組んでいる。
渋滞とは速度が遅いことを指すのではなく、交通工学上の定義は前方のクルマの動きに拘束された状態を言う。その結果、交通の流れは速くなったり遅くなったりと不安定な状態になる。
高速道路の主な渋滞原因は合流や料金所など、減速を余儀なくされる場所だと思われています。それは決して誤りではないですが、パーセンテージで言うと20%程度でしかありません。一番の原因は本線上のサグと呼ばれるところで、それが約60%を占めます。
サグとは谷状の道路で、高速道路上ではゆるやかに勾配が変化します。下りから上りになると当然、速度は落ちてしまいます。そこで速度を保てるように踏ん張れればいいのですが、人間がコントロールしているわけですから、一定にすることはできない。すると後続車との距離が詰まっていき、後続車はブレーキを踏む。交通量が多いとそれが連鎖となり、次々とクルマ同士の距離がどんどん詰まっていく。それが渋滞に繋がるんです。
渋滞時のストレスはクルマに乗る皆さん誰もが感じていると思います。ストップ&ゴーを何度も繰り返しているとドライバーは集中力が低下していきますから、反応も鈍くなり、適切な車間距離を取れなくなる。それが渋滞を悪化させる原因になります。渋滞はドライバーに精神的にも肉体的にもダメージを与えるだけでなく、最悪の場合は事故へと繋がります。そしてそれがさらなる渋滞を引き起こしてしまうんです。
プロパイロットはドライバーの代わりとなって高速走行時の追従走行だけでなく、渋滞時にもきちんと前のクルマを追従してくれるので、渋滞を軽減するための解決策として有効な機能だと考えられます。
そしてなによりも、プロパイロットは渋滞時の人間の行動、精神状態によって起こっていた問題を解消してくれる特効薬になるかもしれません。
※本記事は2016年8月3日時点の情報を元に作成されております。